「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」とよく言いますが、少しでも賢者に近づけるよう、インターネット広告の歴史をざっくりと振り返り、その歩みをまとめてみたいと思います。
まとめるにあたって、こちらの連載を大いに参考にさせていただきました。
もし、もう少し深くインターネット広告の歴史を知りたい方がいらっしゃいましたら、ぜひこちらの連載をご覧ください。
インターネット広告の歴史から思ったこと
- 運用型広告の歴史は20年足らずとまだ浅い
- 競合優位性のあるプロダクトや商品があったとしても、それが顧客に採用されるかどうかは顧客の体制次第
- 後発のGoogleが、先行している企業に勝てたのは、技術力はもちろんだが、ユーザーを大切にする理念があってこそ
- 広告の品質をオークションの仕組みに導入した話はいつ聞いても素晴らしい
- Google AdSenseが誕生したことで、インターネットでの発信が増加して、世界に知識が広まったことに仕組みを作ることの偉大さを感じた
- Googleがメディアレップを通さずに広告を販売したように、中間業者をできるだけ排除したい考えがGoogleにはありそうなので、キャリアの軸足を運用型広告というドメインに置いておくのは危うい
それでは、年毎の出来事をざっくりまとめていきます。
1993年
- 日本でインターネットの商用利用が解禁
- インターネット広告の基盤となる環境が整備される
1995年
Yahoo!の台頭
- Yahoo!がポータルサイトとしてサービス開始
- ディレクトリ型検索エンジンとして広告媒体の基盤を築く
- 検索結果に関連するカテゴリが表示される仕組み(当時は人力でウェブサイトをカテゴリに分ていたためコストはかかったが検索結果が悪くなることはほぼなかった)
- 「千里眼」という早稲田大学が開発した検索エンジンも存在していた。
1996年
主要企業の設立・参入
- サイバー・コミュニケーションズ(CCI)設立
- デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)設立
- Infoseek:先進的なロボット型検索エンジンが日本事業開始
メディアレップ体制の確立
- メディアレップの役割:広告媒体側の営業部門のアウトソーシング部隊(例:Yahoo!の広告を売るための営業部門)
- CCI、DACのメディアレップ2社誕生により、日本のインターネット広告市場が本格化
初期の広告形態
- 主流広告:Yahoo! JAPAN、InfoseekのTOPページのバナー広告
- 課金方式:インプレッション保証型広告(広告の表示回数を保証して広告枠を販売)
- 問題点:サイト内の広告枠を増やすため、ウェブページが広告で埋め尽くされ、ユーザーの利便性を大きく損なう
検索エンジンの特徴比較
- Yahoo!:ディレクトリ型検索エンジン
- Infoseek:ロボット型検索エンジン
Yahoo!の広告商品
- パイロットシート:TOPページの広告枠名称
- フィックスドカテゴリページ:カテゴリを指定してそのカテゴリページにバナー広告を表示
- サーチワード広告:検索結果の上部にバナー広告を表示
広告運用体制
- メディアレップが手動でバナーを入稿
- 広告主→広告代理店 ↔︎ メディアレップ←広告媒体という構造になっているため、広告代理店とメディアレップに二重で手数料が発生する構造
1997年
技術革新
- NTTグループの「goo」と米DoubleClick日本法人設立
- Cookie技術:ブラウザを個別に識別する技術が標準化
- ターゲティング広告:DoubleClickがCookieを利用したターゲティング技術を開発
新しい広告商品
- Microsoft MSN:「今日の特集サイト」(通称「今日特」)という広告商品で台頭
- クリック保証型広告が登場
1998年 – インターネットバブルの始まり
市場環境
- インターネットバブル(1998年〜2000年)開始
- メール広告:インターネット広告に匹敵する売上規模を獲得
- 自社メディア事業:既存の大手広告代理店やメディアレップが力を入れ始める
技術進歩
- アドサーバー登場:ウェブサイトのコンテンツを配信するサーバーとは別のサーバーから広告配信が可能に
- 検索エンジンの啓蒙:まだ検索エンジンに馴染みがなかったため、イベントを開催するなどして検索方法の啓蒙活動が実施されていた
1999年 – 市場の変動期
企業買収・統合
- Infoseek:ディズニーに買収されて「Go.com」に改称
- 法的問題:GoTo.comから訴訟を受け、サービス停止に追い込まれる
2000年 – Googleの日本参入
Google日本語サービス開始
- 初期サービス:検索結果上部に表示されるプレミアムスポンサー広告(インプレッション保証型)のみ
- 運用の複雑さ:日本では表示回数と掲載期間の両方を保証するのが一般的で運用が複雑
- 予測困難:広告の表示回数(検索回数)の予測が困難
- 広告枠拡大:1枠から2枠に拡大
- 差別化課金:検索語句によってクリック単価が異なる設定
販売体制の変革
- 直接販売:メディアレップを通さずに広告枠を販売する決断
- 新しい図式:広告主→広告代理店→媒体という関係性
技術的優位性
- PageRank:検索語句と検索結果の関連性が大幅に向上
- 業界認知:InfoseekのエンジニアがGoogleを検索エンジンとして使うほど高い技術力
2001年 – 検索連動型広告の競争激化
Yahoo! JAPANの選択
- 検索エンジン:Yahoo! JAPANがGoogleを採用(それまではgooを採用)
- 広告システム:米Yahoo!がOvertureの「スポンサードサーチ」を導入していたため、Yahoo! JAPANでもOverture採用方向で進行
スポンサードサーチとGoogle AdWordsのABテスト実施
- A/Bテスト:検索トラフィックの50%にOvertureの広告、残り50%にAdWordsの広告を表示
- 結果:どちらの広告がより売上に貢献するかを実際に計測し、その結果次第で正式採用パートナーを決定することに。
手数料体系の確立
- Overture:「マネージメントフィー」制度
- Google:「Agency Commission」制度
- 共通設定:それぞれ広告費用の20%が上乗せ(現在も広告代理店の手数料の相場は20%)
2002年
Google AdWordsの革新
- オークション型検索連動型広告サービス開始
- 視覚的フィードバック:広告下部のバーでクリック率を表示(クリック率が高いとバーが右に伸展)
- 広告ランク:入札価格×広告品質で掲載順位を決定する画期的な仕組み
業界の反応と課題
- 広告業界の懸念:広告の掲載位置が保証されないことが問題視される
- 大手代理店の消極姿勢:掲載位置を保証することが広告代理店の強みだったのに対して、上記のような懸念があるため参入に消極的な態度
Googleの戦略的施策
- 最低入札価格引き下げ:30円から7円に大幅削減
- 市場拡大効果:
- カバレッジと広告のロングテールワードの市場拡大
- Googleの売上向上
- 少額からの広告配信が可能になり、多くの事業者の参入促進
運用方式の違い
- Overture:入稿作業をすべて社内で実施
- Google:広告主自身が入稿作業を実施
- 結果:Overtureは広告主数の増加に追いつけず苦しむことに、、
スポンサードサーチとGoogle AdWordsのABテストの結果
- 品質重視の成果:掲載順位と課金の仕組みに、品質を持ち込んだGoogle AdWordsがスポンサードサーチの2倍のクリック率を達成。そのため、YahooにはGoogle AdWordが採用されるかのように思われたが、、
2003年 – 市場統合の年
企業買収とその影響
- 2003年7月:米Yahoo! Inc.がOvertureを買収決定
- Yahoo! JAPANの方針転換:検索連動型広告にOvertureの「スポンサードサーチ」を全面採用
- 皮肉な結果:Googleの方が好結果を収めたにも関わらず、社内体制の変化により採用されず
サービス終了と新展開
- プレミアムスポンサーシップ広告終了:Google AdWordsの成功により不要になったため終了
- Google AdSense登場:コンテンツ連動型広告の開始、ウェブサイト運営者の収益化モデル確立
2004年 – 市場の成熟と新サービス
Yahoo! JAPANの完全移行
- 検索連動型広告:Overtureのスポンサードサーチに100%切り替え完了
Google AdSense(Google上場)
- 初期の仕様:テキスト広告のみ表示
- 社会的インパクト:個人がブログやSNSで収益をあげられる体制が整い、情報発信が活発化
新サービス展開
業界構造の変化
- 広告を出して終わりではなく、運用するという概念が誕生
- これにより、運用型広告代理店の増加
- 業務資本提携:大手総合広告代理店とインターネット広告代理店の提携進行
ディレクトリ型検索エンジンからロボット型検索エンジンへの移行による変化
- ディレクトリ型検索エンジン:TOPページへのアクセスが一般的
- ロボット型検索エンジン:検索クエリに関連したTOPページ以外のページへのアクセスが増加
Googleの戦略的買収
- Keyhole買収:現在のGoogle Earth、Google MAPにつながる
2005年
YouTube設立
Googleの戦略的買収
- Urchin買収:現在のGoogle Analyticsにつながる
2006年
市場環境
- ライブドアショック:インターネット業界にも大きな影響
GoogleがYouTubeを買収
2007年
iPhone発売
GoogleがDoubleClickを買収
Googleが自動入札機能「コンバージョン オプティマイザー」を日本で提供開始
- 現在の Google 広告における「コンバージョン数の最大化(目標コンバージョン単価)」の入札戦略につながる。
2008年
経済環境
技術革新
- Google Chrome発売:ブラウザ市場への参入により広告配信の最適化が進展
1993年〜2000年代までの所感
インターネット広告市場が大きくなる基盤ができた期間だったと言えるでしょう。
この期間でGoogleは、後発の企業だったにもかかわらず、その存在感を徐々に大きくしていったことが伺えます。
また、広告代理店業界の構造変化も興味深いです。2001年ごろにできた手数料体系が今も相場となっている点には驚きました。
2010年代以降の主な技術革新
- RTB(Real Time Bidding)の普及:プログラマティック広告の本格展開
- DSP/SSPの台頭:広告取引の自動化・効率化が進行
2012年 – SNS広告市場の成熟
資本市場への参入
- Facebook株式公開:SNS広告市場の本格的な成長期突入
2013年〜2015年 – モバイル広告市場の拡大と機械学習を利用した広告運用の普及
モバイル広告市場の急拡大
- スマートフォン普及率:50%を超える急速な普及
- モバイル検索:PCを上回る検索ボリューム達成
- 格安SIM登場によるインターネット利用料金の減少
Googleの日本営業チームがキャンペーン統合を推奨開始
- 機械学習が働きやすい構造にするためにキャンペーンの統合を推奨した。
- 細分化されたキャンペーンの統合を広告主に推奨する取り組みを、日本の広告営業チームがスタート。
- この動きは、アジアやヨーロッパの複数の国にも広まっていった。
2015年 – Googleのモバイルからの検索数がデスクトップを上回る
- スマートフォンの普及により、モバイルでの検索数がデスクトップを上回った。
2016年〜2017年 – モバイルファースト時代の到来
Googleのモバイルファーストインデックス
- モバイル版サイトを基準とした評価システム導入
- モバイルでのレイアウトや表示速度等が重要になる
2019年 – インターネット広告がテレビ広告の広告費を抜く
- インターネット広告がテレビ広告の広告費用を抜きました。
- 詳細は↓こちらをご覧ください。
2021年 – コロナを背景にインターネット広告市場がさらに拡大
インターネット広告の広告費がマス4媒体を抜く
- コロナの影響もあり、インターネット広告に多くの広告費用が充てられる形に。
機械学習ベースのキャンペーン『P-MAX』がローンチ
- ターゲティング、入札が機械学習によって自動化されるP-MAXがローンチ
- コンバージョンデータのマネジメントが重要に。
まとめ
インターネット広告の歴史を知ることを目的にこの記事を書いてきました。
この記事のように情報をまとめるものであれば、自分でわざわざ情報収集をしなくても生成AIを使えばすぐにできます。その方が記事を書く目的から考えると効率的です。ただ、AIでまとめた情報だけでは知り得ない周辺知識があることを再認識しました。例えば、初期にはメディアレップの存在感が大きかったことや広告主側が入稿作業をしなかったことなどは、おそらく自分で調べないと知ることがなかった情報だと思います。便利さの裏には抜け落ちてしまうものがあることは忘れてはいけませんね。
最後に、私のように支援会社で働く者の所感を最後に述べてこの記事を終わりにしたいと思います。
インターネット広告の歴史は、『手動から自動へ』の流れとともにあることがわかりました。今後も新幹線くらいのスピードで自動化が進んでいき、支援が不要な部分が増えるでしょう。ただ、ゼロになることはないのでは?と思いました。なぜなら、メディアレップや広告代理店の存在によって広告主や広告費用が増えていったように、有効な使い方を指南する存在は必要だと思うからです。「使い方を指南するのは広告媒体側の仕事では?」とも考えられますが、広告主それぞれにとって適切な使い方は変わってくる中で、そこまでを踏まえて媒体側が指南することは現実的に難しいでしょう。
また、事業者さんは本業が忙しいため、広告の使い方をキャッチアップしている時間がどうしても取れないといった事情もあると思います。その中で、自社運用で生まれがちな「自分の使い方で合っているのか」「果たして今の運用状況は良いのか」「もっとよくなるのではないか」という不安や疑念もすぐに消えることはないでしょう。
こういった事業者さんの足りない部分のサポートや不安の払拭に対して、支援会社の介在価値があるのではないでしょうか。
これまで競合優位性が作れていた細かいテクニックは淘汰されていくかもしれません(もちろん淘汰されないかもしれません)が、事業者さんそれぞれの事情(予算、事業規模、市場環境、競合等)を踏まえた上で、適切な出稿設定、データ計測体制構築、運用状況のレビューといった支援は今後も残り続けるのではないかと思います。
参考ブログ